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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(行ツ)5号 判決

上告人

仙台北税務署長

山田二郎

右指定代理人

山田二郎

外一名

被上告人

株式会社高橋工業所

右代表者

高橋熊三郎

右訴訟代理人

勅使河原安夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告指定代理人武藤英一(名義)、同朝山崇(名義)、同山田二郎、同山口三夫、同森栄喜(名義)の上告理由第一点について。

所論は、要するに、原判決には法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの。以下同じ。)三二条後段の解釈適用を誤つた違法がある、というのである

よつて、考えるのに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が確定したところによれば、本件再更正処分の通知書には、更正の理由として、建物譲渡損の否認金五八万七五九四円、建物の譲渡益金一万二四〇六円、借地権計上洩金三三〇万円、寄附金超過取消金六〇万三〇四二円」と記載されていたというのであるが、右の記載によつては、右借地権につき、被上告人において、その借地権がどのようなものか、その価額が何故に課税対象として計上されるのであるか等を全く知ることができないというほかないのであつて、原判決が再更正処分の附記理由には不備の違法があるとした判断は正当として首肯することができる。

所論一ないし三および四の(一)は、法人税法三一条の三を適用して更正処分をする場合には、その旨の理由附記が法律上必要とされていないのであるし、また、申告者の帳簿の記載を否定して更正する場合とは異なり、附記理由としてはせいぜいのところ加除算科目と金額とを附記すれば足りるというが、右三一条の三を適用して更正処分をする場合にも同法三二条後段の規定により理由を附記すべきものと解すべく、また、元来、右三二条後段の規定は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与える趣旨に出たものであると解すべきところ、本件再更正処分に附記された前記理由においては、そもそも、所論借地権について帳簿の記載に誤りがあるという趣旨であるのか、あるいは、所論のように前記三一条の三を適用した結果であるのかさえ不明であるから、所論は採用できない。つぎに、所論四の(二)は、更正処分の附記理由は被処分者に理解できれば足るのであり、所論乙号証の記載からすれば、被上告人は借地権の評価額の点のみについて不服があるにすぎないのであり、したがつて、被上告人にとつては、本件再更正処分に附記された理由により、その趣旨を十分に理解できたものであるというが、右乙号証の書面の記載の趣旨は、後記のように評価の点のみを不服とするものとは認められないのみならず、右書面は本件再更正処分の通知書を受領した後に作成されたものであり、また、原判決の確定するところによれば、被上告人は右通知書の記載自体からみてその理由を理解納得できなかつたというのであるから、所論乙号証の書面の記載を根拠として本件再更正処分の附記理由は不備ではないとすることはできない。さらに、所論四の(三)は、仮に本件再更正処分の理由附記に不備があるとしても、そのかしは再調査決定の附記理由によつて治癒されたというが、法人税法三二条後段の規定の趣旨が前記説示のとおりであることにかんがみれば、再調査決定の附記理由が仮に不備でなかつたとしても、これにより遡つて更正処分の附記理由の不備が治癒されると解することはできない。以上、いずれの所論によつても、本件再更正処分の附記理由が不備でないとするには足りない。所論はすべて理由がなく、採用することはできない。

同第二点について。

所論は、要するに、原判決には法人税法三四条七項の解釈適用を誤つた違法がある、という。

右三四条七項が再調査決定に理由を附記すべきものとしているのは、決定機関の判断を慎重ならしめ、恣意を抑制するとともに、請求人の不服の事由に対する判断を明確ならしめる趣旨に出たものであるから、附記さるべき理由は、請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなけばならないものというべきである。もとより、附記の程度は具体的事案に応じて決せられるべく、また、再調査請求を棄却する場合には、原処分の通知書の附記理由と相まつて、原処分を正当として維持する理由を明らかにしていれば足りることは所論のとおりである。しかし、本件においては、原判決の適法に確定した事実に徴すれば、被上告人の不服申立の趣旨は、再更正処分には単に評価に納得しがたい点があるのみならず、無償使用を事実上放任しているにすぎない本件土地使用関係の特殊性を無視したものであり、要するに、何故に借地権の計上洩であるとされるのかが理解しえないというにあるところ、原判決の確定した本件再調査請求棄却決定の通知書の記載は、「(株)高橋工業所並びに(株)百反はともに同族会社であり資産の譲渡による行為計算は同族会社の行為計算否認に該当するとした当初の処分は相当であり、計算過程による誤りはない、(株)百反の設立は新規設立であつて基本通達二五四の取扱は受けない」というにすぎず、右の附記理由では、被上告会社の資産の譲渡による行為計算は同族会社であるから否認することおよび計算過程に誤りがないことをいうだけであつて、法人税法三一条の三の規定の適用につき、否認の対象となつた行為または計算の内容、否認の根拠等が明らかではなく、結局、本件再更正処分の附記理由と併せてみても、右処分が相当であつて再調査請求が理由がない、とする具体的理由の記載があつたものということはできない。原判決が本件再調査請求棄却決定の附記理由は不備であるとした判断は正当であり、また、原判断は所論判例の趣旨に反するものではない。

所論は、原判示にそわない事実または独自の見解を前提として原判決の違法をいうものであり、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男 小川信雄)

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